深まる国保の危機

 5日付「主張」を読む。国民の約3割が加入する国民健康保険の問題。いま、高すぎる保険料(税)が払えないという世帯が約2割にものぼっているという。

 滞納を理由に正規の保険証が取り上げられ、短期保険証や資格証明書が交付された世帯は153万世帯。資格証明書が発行されると、窓口での支払いは全額自己負担となる。保険料を納付できない低所得者がとても負担できるものではない。そのため具合が悪くても受診せずに、我慢に我慢を重ねた結果、手遅れとなって命を落とす人が相次ぐ異常事態が各地で生み出されている。

 そういえば以前、小学校で熱発した児童に、保健室の先生が「病院に行こう」と言っても「うちは保険証がないから、病院に連れていかないで」とお願いされたという痛ましい事例を聞いた。「主張」は、「全国民に公的医療を保証する『国民皆保険』の中心的な仕組みである国保が機能不全に陥り、国民の命と健康を脅かしている事態を放置してはならない」と訴えている。当然だ。

 許されないのは、保険料取り立てのための財産差し押さえ強化が住民を苦しめていることだ。厚労省の強い指導により、差し押さえを実施した自治体は初めて9割(!)を突破した。命をつなぐ給与や年金などの生計費相当額を差し押さえる法律違反のやり方までまかり通っているという。こうなってくるとヤミ金の取り立て屋も顔負けのすさまじさだ。

 保険料を好き好んで滞納する人などほとんどいない。圧倒的大多数の人々は、高すぎる保険料が「払いたくても払えない」のだ。歴代政権が市町村への国庫負担を大幅に削減したことにより、自治体の国保会計が悪化し、保険料値上げが相次いだ。一方、雇用破壊によって急増した非正規労働者や無業者などが国保加入者の多数を占めるようになり、国保会計悪化に拍車がかかっている。

 安倍政権社会保障の基本原則に「自助・自律」を掲げ、公的医療からの国の責任のさらなる後退を狙っている。だが国民の所得が減り続ける中、国庫負担が減らされればさらに国保会計悪化と保険料引き上げ、滞納増加の悪循環が続くばかりだ。

 必要なことはこの悪循環を断ち切る方向に、政治のかじを切ることだ。すなわち国民の所得を増やし日本経済を健全な成長に乗せること、国保を安心できる公的医療保障制度として再建・拡充させることである。